一周忌 2014.4.6 高松 桂川にて
軸 夢 一切の有為の存在は夢幻泡影の如く、露の如く亦電の如しと、応に是くの如きの観をなすべし
一切の存在は必ず死ぬものであり、しかもその人生は短く、かつ一回かぎりである。いくらもがいても死を免れることができないなら、目をそらさず人生畢竟夢なりという冷厳な事実をはっきりと認め、限られ許されている短い生の間、力いっぱい生きようという意味で追悼の場によく掛けられる軸です。
庭の花を手折ることがきらいな父は家の花瓶に胡蝶蘭の造花を入れていました。今日だけは特別生花で飾り付けさせていただきました。
正客は陰膳にさせていただきました。膳出しのご飯は炊きたての柔らかい物。
飯は三段階に分けてその蒸れた変化を味わいます。汁は白味噌仕立て ごまどうふ こごみ 溶き芥子。この器でたべたら美味しい気がすると言っていただきましたが、保温のよさと吸い口のよさは漆器以外には考えられず、熱い汁を入れても手に持てるのもjapanといわれる漆器のよさです。また蓋は香りを御馳走ととらえ逃がさないためにも欠かせず、日本人の繊細さゆえの道具です。ごまどうふの舌ざわりと汁の口当たりのよさは、ひたすら練り続け、丁寧に漉しとった手間の証です。こごみの緑と芥子の黄色と配色も見事です。向付は天然鯛 防風 海苔 山葵 加減酢。向付の器は父の好きだった山吹の乾山写し。庭の山吹はまだつぼみですが、主亡きあともこの器に負けないくらい見事な花をつけてくれそうです。煮物椀は鮑、白きくらげ、蓬麩、木の芽。残された者は磯の鮑の片思いの如く、ピッタリの貝がない鮑のようなさま。蓋をあけると、お約束通り見事に香りが立ちました。
焼き物 鰆の味噌漬け 一匹の鰆を以ってもてなさん 高浜虚子の俳句にあるように旬のものを最も美味しい状態で用意していただきました。取り箸は中節です。
炊き合わせ 木の芽 ふき たけのこ めばる 骨を丁寧に取り去って炊いてあるのでそれと気付きませんでした。青竹の箸は元節。向付けの器にとるのがお約束ですが、計算通り綺麗におさまっています。
和えもの 花山葵 あさり このあたりでお涙頂戴という趣向の狙い通り刺激的な辛さ。
箸は元節です。
三回目のご飯は蒸らしあがったご飯をたっぷりと。小吸物は油で揚げたつくし。
八寸 からすみ たらの芽 魚卵好きな故人に合わせて海の幸は大きく切り分けていただきました。たらの芽は糖尿病予防効果があるのだそう。箸は中節です。
湯桶と香の物 沢庵 春きゃべつ 昆布 おこげの入ったお湯を椀に注いで沢庵で綺麗にゆすいで清め湯を飲み干すのが禅の作法です。箸は両細。陰膳のご飯は綺麗に折りに詰めていただきもちろん全部いただきました。料理も丁度いい量で残らず綺麗に無くなりました。
主菓子 花筵 見事に咲き誇って潔く散っていく桜に敬を表して。
水菓子 いちご ムース きなこアイス 畑には父の残したいちごの子孫が100株今年も頑張っています。
お包み 菜の花(きんとん) 桜餅 行く春(上用) 舞(きんとん)いずれも花好きな父を慕って
一周忌において、人間の小ささや無意味さにある意味をもたせようとする宗教に癒されました。法事の席にて本来精進であるべきですが、生前大変気前がよく人に奢ることが好きだった父に倣って多少慣例に逆らって桂川さんにも大変無理をさせました。御容赦ください。
健常な時に人を思いやることは簡単ですが、病身のとき、亡くなった後いかに慕い続けることができるかをあらためて考え、一番最悪だと思っていた時に、一年たって振り返ればたくさんの手を差し伸べられもっとも幸せな状態にあったことに気付きました。大変多くの方々の助力によって一年乗り越えることができたことを感謝します。あるがままを受け入れ、失う事を恐れずにいられる強い人間になりたいと心から思います。
佐藤先生には懐石の流れから作法まで丁寧にご指導いただき、事前の準備にはまるでご自分の席であるかのようにこまかい心配りで手を貸していただきました。茶道クラブの一員として佐藤先生のもとで学ぶことができ、おかげでこのような立派な一周忌が行えたことを心から感謝いたします。