2015年3月30日月曜日

【茶道クラブ】~卒寿の茶事~





 今月は卒寿の茶事が催され、その水屋手伝いに参加させていただきました。水屋なのに巻紙でご案内。90歳とはおもえない筆跡でただただ感嘆してしまって、水屋に入るのにも緊張してしまいました。軸は主人公。ここでいう主人公とは一人ひとりの主体的な人格のことで、とかく外部刺激に惑わされ見失いがちな自分というものをはっきりと自覚して、なにものにも束縛されず自由自在でいること、心になにもなければ、力まずにいつどこででもかたくならずにいることができる。御釈迦様がこの世界は我が家だと悟られたように、亭主はもちろん客、水屋手伝いや料理人などの職人すべての人がそれぞれの自己を持った主人公であるという亭主の思いが伺えます。汲み出しは白井半七 絵替り汲出 それぞれ絵付けのデザインがかわいらしい汲み出しに桜の花を白湯に浮かべてほのかな春の訪れを感じました。




 今日の茶懐石は高松から桂川さんが出張してくださいました。向付けの器は貝合わせ、さくら鯛の造りとともに今日の席の為に誂えられたような取り合わせ。汁は胡麻豆腐と上に添えられているのはうるいという山菜で、はじめて頂きましたが、控えめではあるが春の訪れを感じさせてくれる色といい、食べた時のシャキッとした心地いい食感といい、その存在感にまるで90歳を迎えられてもまだ矍鑠とした今日の亭主の先生のよう。煮物椀は帆立真丈と結び麩、うぐいす菜 木の芽の香りが贅沢な一品で、このおめでたい席の為に心を尽して用意した職人の仕事に対する情熱が、見た目にも味にも表れていました。








焼物は鰆 炊合せは若竹煮と眼張 和えものは花山葵とあさり 小吸物はなんとつくし
八寸に鮑とたらの芽 香の物は択庵 菜種 春キャベツ
春の風物詩をすべて頂いて満喫してしまいましたが、これからお茶がはじまります。


 

待合の軸は江戸後期の三代歌人大田垣蓮月の“やどかさぬ人のつらさを情けにておぼろ月夜の花の下ふし”の歌で、宿を貸してくれる人がいなくて人の情けはかけてもらえなかったが、おかげで満開の桜の木の下でおぼろ月夜を眺めながら眠ることができた。人の世は無情だけれど、自然界は平等にすべての人の目を楽しませてくれる、切ないようではあるが自然に慰めを感じてほっとする歌。


主菓子 春うらら 

長寿のシンボルの鶴の菓子器に非常に繊細な色合いのきんとん菓子 本当に綺麗でした

花入れの銘は旅枕。 立花大亀老師の邯鄲の一睡の夢こそうつつなれ 旅の枕の思い染しかという詩の箱書があります。邯鄲の枕 一炊の夢とはある若者が人生の目標も定まらぬまま故郷を離れ、自らの身の不遇を仙人に語ったところ、夢がかなうという枕を授けられた。その枕を使うとみるみる出世し嫁ももらい、時には冤罪で投獄され、名声を求めたことを後悔して自殺しようとしたり、運よく処罰を免れたり、冤罪が晴らされ信義を取り戻ししたりしながら栄旺栄華を極め、国王にも就き賢臣の誉れを恣に至る。子や孫にも恵まれ、幸福な生活を送った。しかし年齢には勝てず、多くの人々に惜しまれながら眠るように死んだ。ふと目覚めると仙人に出会った当日であり、火に掛けた粥が炊きあがってさえいなかった。若者は「人生の栄枯盛衰をすべて見ました、先生は私の欲を払ってくださった」と礼をいい故郷へ帰って行った。唐の小説枕中記の古事の一つ。




水指の銘は無心。 半世紀近くただひたすらに茶道を続けてこられた亭主の心が込められています

菓子器 縁の色合いや透かしがとても素敵ですが、中にも松竹梅の模様があります
内製の花筵を添えてささやかなお祝いの気持ちを込めて



  一切迷いのないお手前は流石としかいいようのない熟練の技を感じます 
茶杓の銘はうたたね。その名の通りまっすぐおけずに横をむいてうたたねしてしまう茶杓
待合の軸、花入れなどの道具の取り合わせから90歳を迎えられた先生の卒寿のお茶事の特別な思いが伺えます。過ぎてしまえば90年という月日もほんの僅かな出来事なのでしょうか。
90年生きた者にしか分からない、若輩者にはとうてい得られない境地なのでしょう。ただただ圧倒されてしまって自分の身の小ささに恐縮するばかりです。もう二度とない今日の卒寿という席をしみじみと振り返り、とても貴重な時間を同席させていただきました。うたたねしている束の間の出来事のような人生 ぼやぼやしてたらあっという間に過ぎ去ってしまう時間をこれからは大切に生きようと感じました。                                           
                                                      H27.3.22
 


 
 
大先生にお稽古して頂いています。新入部員も参加でまた新しいメンバーで頑張っていきたいと思います。また一から教える側はなにかとたいへんだと思いますが、これからも宜しくお願いします。                                                            
                                                       H27.3.18
 

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